風紀委員会
毛利蘭は幼馴染の部屋で真新しいDVDを見つけた。
蘭は無意識にそれを手に取ると裏を返す。どうやら録画済らしい。無意識に辺りを見回すと、蘭は見慣れた新一の部屋を改めて観察した。
相変わらず無機質なこの部屋には必要最低限の物しか置いてはいない。ごちゃごちゃとお洒落なインテリアで埋まっている彼女の部屋とは対称的だ。
そんなシンプルで整頓された空間で、テーブルの下に無造作に置かれたディスクの存在は明らかに異質で、当然の如く、蘭はそれに強く興味を惹かれた。
なにが録画されているんだろうと、彼女は首を傾げて思案する。
ミステリーかなにかだろうか。――でもそれなら。
蘭の眼はテレビの隣に設置されたDVDラックを映す。
ミステリーならケースにタイトルを書いたラベルを貼って、あのラックに50音順に並べているはずだ。書く暇がなかったのだろうか。それは有り得るかもしれないが、どうにもしっくりこない。
このDVDは意図的にタイトルが付けられていない気がするのだ。もし、仮にそうだととすれば、……他人に推測されたくないもの――?それってまさか。
蘭は眉間に皺を寄せる。
でも新一に限って。でも新一だって男なんだし。でもでも。と、百面相を続ける蘭はドアの外の足跡に気が付かない。
階段を上り終えたそれは蘭が居る部屋の扉の前で止まる。
「なあ蘭、」
ノックもなく開いた扉とそれと同時に己を呼ぶ声に、蘭は悲鳴を上げて手に持っていたDVDをフローリングに落とした。
カシャンと思いの外、大きく響いた音に身を縮める。
「なにしてんだ?」
呆れた口調の新一が蘭の顔を覗き込むと、彼女は気まずそうに視線を泳がせている。
不自然に動揺する蘭とフローリングに落ちたDVDを交互に眺めていた新一は不意に口角を持ち上げ、不敵に笑った。
「蘭」
「なに」
「オメーの思考を当ててやろうか」
蘭は要らないと顔を背けようとするも顎を固定されてしまう。
「オメーはここでこのDVDを見つけて興味を持った」
これにはタイトルがないからなと笑う。
「で、何が入ってるのか考えた。色々候補を上げて、行き着いた答えは、――」
新一の瞳が妖しく光るのを蘭は見た。顔が引きつる。
「エッチなDVDだと思ったんだろ?」
蘭の頬が真っ赤に染まる。それは新一の推理を肯定していた。
「…………」
「ん?どうなのかな、蘭ちゃん?」
「………そうよ!そう思ったわよ!悪い?」
赤い頬を膨らませて怒る蘭を、新一は意地の悪い眼差しで見据えると彼女の耳元に口を寄せた。
「見てみたい?」
艶の混じった声と、耳に掛かる息に蘭は体を強張らせる。
「馬鹿、なにいって……」
「一緒に見る?」
新一は逃げようと後退る蘭の腰に手を回すと、スカートから覗くすらりと伸びた太股をもう片方の手で撫でようとする。しかし彼女の蹴りという名の抵抗に遭い、詰まらなそうに息を吐いた。
「ちょっと!」
気を取り直したよう表情を改めた新一は、蘭を背後から抱きすくめると更に色を増した声を彼女の耳元に掛ける。
「たまには変わったシチュエーションでセックスするのも悪くねーと思うけどな」
眼前にある耳朶をゆっくりと舐め、彼女の長い黒髪を手で軽く纏めると、晒されることとなった項に口付ける。
「……あっ、」
その愛撫に蘭は切なそうに眉根を寄せた。その色っぽい表情を新一は覗き込むと嬉々と眼を輝かせる。
「新一……」
咎めるような蘭の小さな声。
「ん?」
「あのDVD、ほんとに」
そこに疑惑に満ちた声に新一は苦笑する。
「………ちげーよ」
蘭は閉じていた眼を開けた。
「AVなんて俺には必要ないし?」
「だって新一だって男の子だし興味あるんじゃない?」
「全然」
「意地張っちゃって」
「張ってねーよ」
「別に私は干渉しませんから、ひとりのときに勝手に見てください?」
"ひとり"を強調する蘭は先程の会話を引き摺ってるらしい。
とつーか、と新一は眉を潜める。
相変わらず人の話を聞かない女だなと大袈裟に溜息を吐くと、本日何度目かの甘い声を召喚し、「蘭だけで間に合ってるし?」とやはり彼女の耳元で囁いた。
(自分の不在時に自宅の掃除をされることに抵抗のない新一は、この類いのモノを持ってなさそうである)